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星マリナさんの『イキガミ』に対するお尋ねについて
2008年9月18日
小学館 コミック編集局 執行役員 片寄 聰


 弊社発行のコミックス『イキガミ』が、星新一先生の小説集『ボッコちゃん』(新潮社刊)所収の短編『生活維持省』に似ているとのご指摘を、本年4月、新潮社様を通じまして、星先生のお嬢様である星マリナさんからいただきました。
 しかし、『イキガミ』の作者・間瀬元朗氏も担当編集者も、最近になるまで星先生の『生活維持省』という作品を読んだことはなく、このご指摘に困惑するばかりでした。

 『イキガミ』は、間瀬氏が2004年8月にヤングサンデーに発表した読み切り作品『リミット』がもとになったものです。
 間瀬氏はかねてから現代社会において“命”の価値があいまいになっていると思っておりました。「命を大切に」と声高に言われる一方で、弱者切り捨て、凶悪犯罪の増加など、現実に起きている現象は「命を大切に」というスローガンとはかけ離れています。命とは本当に重いものなのか、大切なものなのか、大切ならばその命とどう向き合えばいいのか……それを読者と共に考えていけるようなストーリーを、と思案し、「生命の価値」を認識させるために国民の命を奪うという歪んだ国家・法律がある設定を考え、『リミット』という作品を発表いたしました。
この『リミット』を描く時点で、太平洋戦争当時の徴兵のための召集令状――いわゆる「赤紙」のイメージを物語の設定部分として用いましたが、連載が決まり『イキガミ』の構想に入った段階で「赤紙」についてさらに詳しく調べるなかで、『赤紙 男たちはこうして戦場へ送られた』(小沢眞人・NHK取材班著 創元社・1997年)などの書籍、映像、資料に触れることができました。それらを通して、赤紙の配達員の存在とそのエピソードを知り、そこに着想を得て、“死を配達する人”を狂言回しとしての主人公に据え、死を宣告された若者達が限られた時間のなかでいかに生きていくか、をテーマとする『イキガミ』を本格的に創作するに至りました。

 星マリナさんより『生活維持省』と『イキガミ』の類似点に関して数回にわたってご質問をいただきました。そのすべてのご質問に対して、作者、担当編集者、掲載誌編集長が、直接間接に、『イキガミ』創作経緯に関して正直に答えさせていただきました。最後の37項目にわたるご質問に関しても、すべての項目にお答えいたしました。
それらの回答で一貫してお答えしておりますとおり、『イキガミ』作品化の過程で、星先生の『生活維持省』を参考にした、もしくは依拠した事実は一切ありません。また、星マリナさんが同時に指摘された、『生活維持省』の漫画版も、作者・担当者とも読んでおりません。

 星マリナさんは『生活維持省』と『イキガミ』の類似点を指摘していらっしゃいますが、弊社は2作品に多くの相違点を感じます。たとえば、『生活維持省』と『イキガミ』の大きな違いの一つに、死亡の24時間前に通告書を渡しに行く(死亡を告げる公務員が自ら手をくだして相手の命を奪うのではなく、単に告げに行く)、という点があります。
作者のこの設定により、死亡を宣告された若者が24時間の間に何をするか、どう生きてどう死ぬか、というドラマが生まれます。そのひとつひとつのドラマこそが作者が描きたかったことであり、作者なりに、現代の閉塞した社会を生きる若者に向けて命がけでメッセージを送っているつもりです。そしてそれは、上述したように、国家によって選ばれ、配達人によって召集令状=赤紙を渡され、死地に赴かざるを得なかった若者たちが、何を思い、悩み、戦場で死んでいったか、そしてその家族がいかに苦悩したか、という歴史的事実からの着想であり、構造的には設定部分はそこに由来するものです(死亡者の家族への遺族年金、通告書の受け取りを必要とする、といった部分も歴史的事実からの着想です)。
 『イキガミ』は間瀬氏のオリジナル作品であり、『生活維持省』とはまったく違う創作物です。仮に類似点が見いだされたとしてもそれはまったくの偶然であり、『イキガミ』が『生活維持省』に依拠も参考もしていない以上、法律的にも道義的にも問題は発生しないものと考えます。

 星先生の作品、星先生の果たされた偉大な創作活動には深く敬意を表します。また星マリナさんがお父上の作品を守ろうとするお気持ちも心より理解いたしております。しかし今回、『イキガミ』創作の依って立つ部分に関しての弊社の回答が、星マリナさんのご納得を得られなかったのは誠に残念なことと言わざるを得ません。

 このたび、星先生の公式サイトに、星マリナさんからこの件についてのご報告が発表されるとうかがい、弊社の見解を公表させていただきました。
 本文を星先生の公式サイトに同時に掲載させていただくご許可をいただきましたことを星マリナさんに感謝申し上げます。
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